2005年02月06日

アニメ休視聴日を利用してマイネ総括なぞ試みる(注意:だだ長い)

「吟遊黙示録マイネリーベ」は、シリーズ後半部のさらに後半に至るまでエピソード構成の意図が分からないアニメなんですわ。

録画テープを貸した友人からも『見ていて何がやりたいか分からない』という感想をもらったし、第4話(ナオジエピソード『異国』。この回からぐっと-いろんな意味での(笑)-膨らみが増したと思う)から序々に毎週楽しみに視ていた私自身も、正直テーマがつかみ取れなかった。いわゆる乙女ゲー原作であるという情報から“美形キャラ同士の友情もの”であることは確かだろうとは考えてはいたけれど、その曖昧なモチーフの周辺をうろうろするだけで1クールの放映は終わるだろうとなんとなく予想していた。言い換えれば、13話分を6人のメインキャラの持ち回り単発エピソードのみで構成された程度の他メディア商品宣伝アニメとしてのみ企画された番組かと受け取っていた。なにしろ、前半は主人公オルフェの印象がかなり薄いという点がマイナスポイントに感じられる。フラットな視点からいえば、スタートダッシュがあまり良くない構成ではある。ただし、今はそれがむしろ意図的なものだったと感想サイト持ちとして自信を持っていえる。とはいえ、そんな大胆な手法を採用することができたのは(詳細な視聴率を採取されていない)CS放送局のみでの放送という変則性があったゆえでしょうね。そういう面でかなり幸運なめぐりあわせの企画だったのかもしれない。

いまだ開拓分野といえる、女性向け恋愛シミュレーションゲームを原作とするアニメがどういった着地点を迎えるのか。それをスタッフのブレインストーミングを後追いする形で探っていく。ものすごく広義のミステリー手法とさえ言えるかもしれない…とかちと誇大妄想気味にすら捉えてみたくなってます。(うーん、ミステリとミステリーを区別して使ってる人らに鼻で笑われてしまいそぅ)

さて、アニメ版マイネにおいていかなる物語の決着が用意されたか。その方向性はシリーズ終了も押し迫った第11話「現実」においてようやくぼんやりと見えてくる。主人公オルフェの持つトラウマ(この作品のメインキャラは大なり小なり全員、過去の不幸を色濃く背負ってるという設定。えーとルーイは… 彼はなやみがないのが悩みというタイプなんだろう多分。)の根源である事件の、真相の一端がゲストキャラの口から語られるのである。これまでも実行犯の黒幕に関するほのめかし程度の伏線は張ってはあったけれど、それらから推察するに事態は国家レベルにまで関与している模様。めずらしくないパターンとしては、直接的な対決は避けたまま心情的な前向きさのみ描いて終幕するというものがあるだろう。ましてや本作は人気声優を揃えての女性向け美形キャラクターもの。無理をしてシリーズ終盤において風呂敷の広げ方を舞台である学園外にまで拡張しなければならないこともなかったろうに…マイネは大胆にも手を出したんだわ。

ところが第12話「廃墟」(この一見不可解なサブタイトルの意味するところは、おそらくエドたちが現実を知ることを選びとったのちに、これまでの視界が一変したことを示してるんだろね。OPでも歌詞に入ってるように『壊すことがはじまり』の新世界から眺めたかつての風景)においては、がぜん搦み手な脚本で攻めてきた。オルフェの陥った危機に際しての、他キャラたちの行動や団結心の描写を謀略側との折衝よりもさらに重点的に描くことで、オルフェのこれまでの個性の薄さを逆手に取ってのクライマックスが設けられたわけだ。つまりオルフェの持つポテンシャルの神髄は、(直接行動するよりも)むしろ他者の心を動かしてひとつの方向にまとめあげる点に存在をおかれていた。ここで私はいたく感動してしまったわけです。ストーリー自体よりもさらに、こつこつと地道に積み上げてきた描写の数々がひっそりと実を結んだ事象そのものに。またもうひとつの重要シーンである死んだ姉と語り合うオルフェの夢の中。ここで彼と姉とが双生児のように似た顔であることが、鏡像のようにもみえるカットのつなぎによって印象付けられる。そして、その場面によってOPやEDに象徴として描かれていた汎女性イメージの根源が、オルフェが意識下でとらわれつづけていた死者のイメージ(主体が失われたことでよりいっそう強い影響を持つ他者像であり、同時に自分自身のアニマ/アニムスでもある)を示していたとようやっと気付けるわけです。最終回ひとつ前で、ですよ? もう、やられたと思った。自分の中にいるもうひとりの自分との真摯な対話による、現状の克服。これって真下作品定番のテーマじゃないですか! 各話スタッフクレジットにはついに名前を見せなかったままだったけれど、やはりアニメ版マイネは真下監督作品と呼んで遜色ないと追確認できた意味でも、なんというか胸が熱くなる気持ちでしたよ。(なにやらストーカーめいた… 当方、幼少時より「未来警察ウラシマン」などで真下作品に馴れ親しんで「EAT-MAN」で真下演出へのリスペクトをはっきり意識した者です)

さて最終話「理念」。ここでも最重点は外界との対決よりも(とはいえマシモスタイルの特色溢れるアクション部分にも手は抜かれていないけど。それにしても銃と洋剣の丁々発止を止めるのが虚弱気味な少年の投げた青い薔薇一輪だとは…かのベルばらもまっさおなエレガント脚本といえるのではないでせうか。まあ考えれば考えるほど詳細不明なギミック扱いではあるが)、エピローグ的な語らいシーンの方に置かれている。その肝の部分にしても、他者を許すことで自分自身をも許すという心理世界に大きく舵をきった志向性が。その瞬間に(よいタイミングにOPテーマがBGMとしてかかる)、本作の女性向けアニメとしての本分はまっとうされたとまたまた感じ入りました。思えば第1話から貫かれていた基本コミュニケーション描写における女性性は、ここでひとつの昇華をみた。姉の仇との対峙よりも、オルフェにとって重要だったのは自分よりもさらに強く苦しんできた姉の婚約者を癒してやることであり、その事によって自分の中の姉のイメージともひとつの別離を図ることだった。ひじょーに少女漫画的です。

こうして主人公オルフェは自分の中にあった女性性(しばしば静寂なる虚無、つまり彼岸への誘惑をも意味する)を克服することでメインテーマを担う役割を全うしたわけですが、ところが作品全般としてのモチーフ面においては反比例して女性主体的なスタイルを堅持しきった。そのアンビバレンツな手さばきぶりが、やおいと呼ばれているジャンルの本質をひどく大胆についているのではないかと、現在考える次第であります。なぜなら、やおいを愛好する女性たちは自らの性に対して常に二律背反する想いを割り切れない人々だと思うから。

……まあほんと長くなってしまいましたが、真下耕一監督、シリーズ構成担当の面出明美氏、脚本を数話担当した川崎ヒロユキ氏、美麗なキャラクターデザインや各話作業でいわゆる神作画を見せてくれた芝美奈子氏はじめ、製作/制作者のみなさんに3ヶ月のお楽しみをありがとうございました、と言いたいわけです。ごちそうさまでした!さてさて、ブログをはじめて、ようやっとトラックバック機能を使う日がやってまいりました。

アニメの世界へ☆はじめの一歩☆さん:出演声優に注目したアニメ感想を主に綴られておられます。当ブログマイネ第12話感想へのTB、ありがとうございました。

After Dark, My Sweet.さん:おそらく最も(公式サイトよりも)詳細なマイネあらすじを毎週記されていたマイネリーバーの鑑と呼べるサイトさんです。毎週おさらいとして楽しませていただいておりました。


posted by 三和土 at 03:09| Comment(2) | TrackBack(3) | アニメ/TV番組感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは♪
アニメの世界へ☆はじめの一歩☆の
yukeeと申します。
TB&コメントありがとうございました。
声優さんに偏ったブログですが、
これからも、よろしくお願い致します☆
Posted by yukee at 2005年02月06日 11:20
yukeeさん、ようこそ〜
こちらこそよろしくお願いいたします。

マイネでは、特に保志さんのたおやか系の演技が(これまであまり知らなかっただけに)新鮮でした。好きしょの直とも、カミユの演技は微妙に違っていますね。カミユの方がすこし女の子っぽさが薄いように聞こえます。
Posted by 三和土 at 2005年02月07日 11:28
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Excerpt: 「理念」 国王様が視察に来るということで、 オルフェを撃った犯人をあぶりだす、
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Tracked: 2005-02-06 11:14


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