2006年11月06日

シュヴァリエ#12「祖国に眠れ」

第二章ロシア編の最終エピソードであり、チーフライターとしてクレジットされているむとうやすゆき氏の脚本担当回でもあるということで今回の出来の如何により本作の後半の雲行きが計れるなと思ってましたが、まずは及第点、いえ合格点といって良かったかと。エカテリーナ二世、謙虚な可憐さを残しつつつも気丈な芯も確実に育ち始めていたのがとても良かった。

史実では妻の愛人にひそかに絞殺されたらしいピョートル三世の本作での末路は、宮殿敷地内でのすみやかな絞首刑。哀れを誘う取り乱した泣き顔、稚気の象徴であった木製の兵士人形が草地に転がる描写と王権の無情さがしみじみ伝わる十分な描写でした。国家を一個人が象徴して背負うことは矛盾を最初から孕んでいる行為であり、だからこそ王には誰よりも貴い品位と高い気位が必須となる。ロシア編冒頭にて描かれていた、宝石を台上から薙ぎ払ったエリザヴェータの内面の孤高を、エカテリーナは正面から受け継ぐことができたのだと納得できる演出でした。デオンたちとの別れを惜しむとともに旅の幸運を祈る最後の謁見場面ともどもに。

他の場面も、ボロンゾフ対デオン=リアの剣闘シーンの動かしぶりも剣の重量感のある力の入ったものだったし、オーギュストのはしゃいだ笑顔がやたら愛らしかったヴェルサイユ宮殿の状況も過不足ないボリューム、またデュランとマクシミリアンの元同僚同士にてひそかな恋のライバル同士の対峙もなかなか見応えが。こうしてタイプの違う色男対決を俯瞰して眺めると、マクシミリアンは青臭い思考が面に滲み過ぎてる点(つまり書生くさい)においてモテ度はデュランに及ばなさそう。でも反面、ハマる人にはハマるタイプなんだろうな、往々にして。次回はいよいよリアとのツーショット回想場面が拝めそう。そしてイギリス編一話目にして早々に女王メアリー・シャロットが出るらしい。彼女の秘密ってもしかして男性ということでは…とか突飛な思いつきをしたのは、声優さんが以前28歳の流浪人を演じていた経緯からの発想(笑)

ところで本作を見始めてから知ったブルボン王朝時代の史実において、もっとも衝撃を感じたのはルイ15世暗殺を狙って失敗した容疑者が馬に牽かせる四つ裂き刑を受けた一件。予期されえない手順のまずさもあり、かなり長引いたもので刑吏本人すら嫌気が差したらしいです。その執行があったのはたしか1757年、劇中の年代とも重なるかと思われ、もしモチーフに取り上げられたら繊細なデオンは動揺してしまうだろうなと思いましたが、今回のピョートル三世の絞首刑シーンにおいて世界観上における王権の暗い面はテーマとしてそれなりに昇華された観もあるので、その線は消えたなとか考えたりしました。
posted by 三和土 at 00:44| Comment(8) | TrackBack(0) | アニメ/TV番組感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 ロシア編最後を飾るだけあって、史実性は兎も角、演出的には三和土様の仰るように満足のいくものでした。
 ロベスピエールとデュランの三和土様の考察は面白いですね。
 確かにロベスピエールは書生臭さが抜けきらない男でデュランの方が女性の人気は高そうです。
 しかし美人で聡明で今まで出会う男性は皆が彼女に関心を多かれ少なかれ寄せてきたリアにとっては、彼女これっぽっちも関心を持とうしない書生肌で生真面目そうな美貌のロベスピエールは気になる存在だったのかも知れませんね。
 個人的にはボロンゾフが見事に騎士として散ってくれたので満足しております。
 ただ、リアに止めを刺された彼の脳裏の走馬灯のように浮かぶ光景のシーンを見ていると、ボロンゾフがエリザヴェータを裏切った理由は述べないか、前回のように唐突にだすのでなく、最初から彼に何度も言わせておけば良かった気が致しました。
 前者なら、あの走馬灯のシーンで視聴者が彼の心情を想像する事が出来たでしょうし、後者なら、彼の理とは違うものが理由と考えれたのではないか、と思うからです。
 私はリアに対する嫉妬的なものも感じたのですが。
 兎も角、彼を眺めるリアの表情が、カロンを倒した時と同様の哀れみに満ちた者であった事と相まって彼の最期はこの回だけで見るなら満足できるものでした。
 そして四つ裂き刑ってまだやっていたんですね。知りませんでした。
 確かにそれを見ればギロチンの方が人道的処刑法かもしれません。
Posted by 猫 at 2006年11月06日 23:57
史実との兼ね合いは、これまでに比べてなぜか簡単に頭の切り替えができるようになりました。マクシミリアンやデュランといったオリジナルキャラたちの活躍が今回は多かったせいかもしれません。とりあえず、無難な線ではパラレルワールドとして理解しておくのがベストでしょうか。いやリミックスワールドになるのかな…

ところでデュランといえば、ガーゴイル化したベストージェフの首を表情も変えずに最小の動きでかっ切った冷静さが印象的でした。エージェントとしてはデュランの方が正統派で、リアやマクシミリアンはデスク派というか調査組だったのかも(このコメント部分、先日読み終えた小説版からの影響入ってます)。リア(確かに、気を持たれるのに慣れてたであろう彼女は自分に興味を示さない相手を追いかけそうなタイプに見えますね)はマクシミリアンに、自分と似たものを感じていたんではないかと想像しているんですが、しかし逆はどうだったかというのが今後の物語を牽引するミステリーの主軸となりそうに思います。マクシミリアンはリアの事をどう思っていたのでしょう。デオンはもちろん、デュランも同じくその点は探りたいと考えているような。

ボロンゾフの件は、“黙秘権”を行使させることで走馬灯演出に想像を託すという手法、使えたかもしれませんね!! それは思い浮かばなかった発想でした。エリザヴェータもそういえば「私が他の同志に気を取られすぎたばかりに」みたいな事を生前言ってましたし。リアと女帝が談笑するのを見て背後に組んだ手を握りしめるという演出からは、私も恋の嫉妬に近いニュアンスを感じました。結局、ボロンゾフもベストージェフ同様に女同士の結束を疎んじたゆえに女帝の思惑に反発したというのが実情だったのかも。まあ判断材料が足りない以上、勝手な想像にすぎませんが。

>四つ裂き刑ってまだやっていたんですね

私もその点がとても意外でした。あの華やかな時代に、野蛮な処刑が残っていたというのはかえって不気味さが増して感じられて。詳しい状況については検索してみると(私の場合は)個人管理の処刑知識サロンBBSにて読むことができました。もっとも、実に陰惨なのであまりお勧めはできません…
Posted by 三和土 at 2006年11月07日 03:47
ピョートルのダメキャラがかなり気に入ってたけど死刑になってしまいましたね〜★

物語も半分終わりました。
あとはイギリス、フランス・・と続き終わるのでしょうか。最後に老デオンの顔が見てみたいです。

ボロンゾフの最期はあれで満足です。
騎士として散ってくれた。
でも革命側についた理由があの「先祖から受け継いだ〜云々」だったとはちょっと・・(苦笑)
もうちょっとひねって欲しかったというのが本心です。もちろん↑以外にも、書かれているように嫉妬に近い複雑な感情があったのでしょうが。

ロベピー対デュランのシーンで、ロベピーの言葉にぎゅっとこぶしを握るデュランがなんともいえずステキでした。
ああ。。あんなふうに愛されたい・・(誰に?)

処刑知識サロンですか・・す、すごいですね。
昔は残酷でしたから想像するだけで気絶しそうですね、ほんとに。
そういえば拷問サイトもあるということを聞いたことがありますが恐くて見れません(笑)
オーギュスト(のちのルイ16世)がギロチンの角度をより正確にし、囚人が苦しまず素早く首が落ちるようにしたといわれています。
でも革命時そのギロチンによって自身も首を撥ねられてしまうのですが・・

王家の詩、言葉、ロベピー
うまくアレンジしたなぁと感心しました^^
Posted by mayu at 2006年11月07日 12:14
ピョートル三世は私もけっこう好きなキャラでした。表情のへたれっぷりもでしたが、なにより声優さんの情けなさをきちんと出した演技が最高です。

>あとはイギリス、フランス・・と続き終わるのでしょうか

公式サイトのキャラクター紹介ページの上部を見ると、四章仕立てのようなのでその可能性が高いですよね。イギリスで真実を知ったあと、フランスに戻って決着、でしょうか。最後にはぜひ、エピローグ部分を取って老デオンの顔見せ(やはり女装?)が見たいですね!

>ああ。。あんなふうに愛されたい・・(誰に?)

デュランの気持ちに応えていれば、リアはきっと今頃幸せに生きていたんではないかと。でもそうできなかったあたり、彼女にもデオン同様の生真面目さというか純粋さを感じます。

>オーギュスト(のちのルイ16世)がギロチンの角度をより正確にし、囚人が苦しまず素早く首が落ちるようにしたといわれています

オーギュスト、なんて優しい子…!! 皮肉な結果となったとはいえ、彼は死ぬ瞬間までもしかしたら革新を熱望した平民たちの気持ちに理解を示していたのではないかなあと、想像してしまいます。優しすぎる性格は王権には合わない…

>うまくアレンジしたなぁと感心しました^^

ロベピー(前回分の感想でこの愛称使わせていただきました。これからもよろしくお願いします)ってきっと言葉オタクですよね(笑) 視力もよくなさそう。
Posted by 三和土 at 2006年11月08日 17:22
今日のシュヴァリエはお休みなのでちょっと退屈〜^^;

ロベピー
どうぞご自由にお使いくださいませ^^
こちらこそよろしくお願いします。

オーギュストの性格は優しいというよりどちらかといえば優柔不断、気が小さい・・などと悪く言われていたみたいです。その性格ゆえ帝王学もまともに学んでこれなかったらしいですから王位につくにはちょっと不適切ですよね。
彼は学者肌だったのでそっちの人生を歩いていればギロチン刑にならずにすんだのかも。。と思います。
Posted by mayu at 2006年11月11日 15:10
休止日、来月中旬にもあるみたいなんですよ〜
見られなくて初めて分かったけど、私は「シュヴァリエ」を見て一週間に荒んだ気持ちを癒していたみたいです。実は優しい気持ちになれる優雅なアニメなのかも。

「ロベピー」の件、ご了承ありがとうございます。これからもちょくちょく使わせていただくと思います。重ねてよろしくお願いいたします。

ルイ16世の優柔不断さ(それを優しさを意訳したのは「ナポレオン 獅子の時代」の影響かもしれません。この作品における断頭台での彼の描写はとても印象的です)が招いたもっとも決定的な過ちはおそらく海外亡命を図ったことになるのでしょうね。あの一件で民衆の激昂を買っただけでなく、王位への資質をも損なってしまったのは残念なことなのかもしれません。鍵を作るのが趣味だったとのことで、平民として生まれていればまだしも幸福な生涯を送れていたかと思うと、まったく気の毒で仕方ないですね。 
Posted by 三和土 at 2006年11月12日 00:06
 ルイ16世は確かに穏やかな性格をされた方だったのでしょうね。
 ギロチンの断頭台に己が首を載せる前に「余は人民の総てを許す。この人民の不幸な怒りに……」などと述べたように記憶しております。
 フランス革命も勝者によって述べられる面もあり、実際ルイ14世、15世と続く国費の浪費で国家財政は既に破綻しており、如何なる名君でもそれを覆すのは難しかったようです。
 彼は平民か、もしくは安定期の王であることが幸福だった人物なのでしょう。そうだったならば、外交政策はともかく民を想う慈悲王として名を残したかも知れません。

 そして三和土様は「ナポレオンー獅子の時代」を読まれていますか。
 私はロベスピエールとダントンの立場は違えど、共に奥底では認め合った関係が好きだったりします。
 最近ではナポレオンの配下となり名を残す連中が続々と登場してますね。
「男子たるもの戦場では婚礼の新郎のように身だしなみを気をつけるべし」(?)とのたまったランヌも遂に登場し、ネイ、ベルナドット、マクドナルドなどの将星がどのように登場していくか楽しみです。
 また大抵はナポレオンの引き立て役に終わる彼のイタリア遠征時のオーストリア将軍が有能に描かれているのも好感がもてます。
Posted by 猫 at 2006年11月12日 19:14
「ナポレオン 獅子の時代」は兄が単行本を集めている相伴にあずかってます。登場人物が増えていく中でやや把握が追い付いてない部分もあるので、最新刊も出たことだし、漫画喫茶にでも行って“集中復習”したいなあと思ったりする今日この頃… それにしてもあの作品のハッタリの思いきりの良さ(仕込み車イス!!)と時代考証のこまやかさ(ルイ16世の最期の様子もあながち想像ばかりではない描写だったのですね)との両立は独特な案配で面白いですよね。

それにしてもフランス革命。個人的には現代のフランス事情を読み聞きする時、「日本にもあんな市民感覚があればなあ」と憧れているともいっていい気持ちを抱き、そしてフランス革命の歴史的な意義の大きさに思いいたるのが常道コースなんですが、それでも、犠牲になった存在の多さをいかに考えればよいのかはどうにも答えが出ません。ルイ16世一家がそれなりに温情ある処置を受けていればあるいは…と考えたりもするんですが、後世にまで影響を及ぼす莫大な集団エネルギー活動の前にそういった感傷的かもしれない問いすら無意味かもしれないとかも思ったりして…
Posted by 三和土 at 2006年11月13日 05:13
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