2004年10月15日

今期の読了本その38(小説:15)「白い果実」

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ジェフリー・フォード 著/山尾悠子、谷垣暁美、金原瑞人 訳/国書刊行会 刊

世界幻想文学大賞を受賞している1997年の作品。三部作の内の第一作とのこと。

観相学(大衆の人相を体系化して性質解析に用いたもの。はげしく恣意的で独裁体制の道具となっているという設定)の専門家としていけすかなく登場した主人公が不老不死の効用を持つ“白い果実”を求める支配者の指令を果たすべく片田舎の属領で捜査をすすめる間に、唐突に失墜してしまう第一章はゴシックミステリー調。

流刑先の硫黄掘削所で孤独な激務に耐えつつ風変わりな島の使用人たちと交流を深め、属領で知り合った娘が残した手記によって“白い果実”の成り立ちに思いを馳せる日々を描いた第二章は監獄小説仕立て。作業場の不快さと硫黄の質感や悪臭、対照的な夜の宿泊所のいこいを描き出す筆致はフェティッシュで、翻訳のリライトを担当した山尾氏の持ち味を最も楽しめる箇所かもしれない。またこの章においても、登場人物プロフィールのミステリーが牽引役となり、リーダビリティを補強している。装丁の第一印象ほどには堅い小説ではないのである。むしろ十分にエンターテインメントな仕上がりとすらいえる。

第三章においては主人公は独裁者の待つ首都へと帰還することになる。そして民衆の間にひそかに反乱のきざしが根強く芽吹いている事を知り、以後はテンポよく内部崩壊のスペクタクル劇が綴られる。キーワードとなるのは“楽園”。主人公、独裁国家の住民、滅ぼされた属領の生き残りの人々、それぞれの行動が目指す“楽園”とはいかなるものなのか。最終章としてふさわしく見事な手際で描き出される一つの思索ルート、そしてラストの文節の余韻が、いつまでも胸中に響き渡る極上の読後感。

あー山尾訳、最高です。そしてジェフリー・フォードの他の作品も早く読みたい!
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2004年10月14日

今期の読了本その38(エッセイ:15)「安心のファシズム」

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斎藤貴男 著/岩波書店(岩波新書) 刊

章の中で最も新しい話題であるのは冒頭の“イラク三邦人人質事件へのバッシング批判”テキストだが、斎藤氏の面目躍如たるのはやはり携帯電話や自動改札が蔓延する社会方向への間接的な結果をも含めた敷衍の論考だろう。一見、有効で簡便に見える過度なシステム化にひそむ権力主体の思惑への視点。たとえば、ここ数年で盛り場に設置されている犯罪防止用の監視カメラについては“カメラの死角に移動して今まで通りに犯罪が起こるだけではないか”、“カメラを設置した事自体が民衆へのブラフとなってかえって防犯活動の密度が低くなる恐れについて論議されてはいるのか”といった具体的な提議がなされており、設置する側からは決して口にされる事のない論点を粘り強く展開させる斎藤氏の活動は、こんな世情においてこそ必要度をいや増していると感じられる。
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今期の読了本その37(グラフィック:4)「北斎妖怪百景」

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京極夏彦 前文、多田克己,久保田一洋 編/国書刊行会 刊

当世売れっ子小説家である京極氏は編集全般ではなく(企画立案には関わっているのではないかとは文面より推察される)まえがき部分のみ担当。とはいえ浮世絵や江戸文化とも関係が深く、かつてグラフィックデザイナーでもあった氏の名前をこの画集に冠したことは商業的にも非常に正解だと思う。

海を渡った作品がヨーロッパの画家に影響を与えた芸術家という北斎への決まり文句に対して、しかし北斎はなにより庶民の欲求に正直にこたえた職人画家であったという京極氏の持論に沿って、時にグロテスクな描写法、時にスペクタクルな画面構成で表現される北斎の筆になる豊富な怪異ものを素人にも分かりやすい解題を付けて編まれた画集。他の特集ではあまり目にすることがなかった読本挿絵の章が特に印象的だった。それにしても北斎は仕事量の多い絵師だったのだなあ。(でもそれは浮世絵師一般の特徴か)

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2004年10月10日

今期の読了本その36(エッセイ:14)「マンガ世界の歩き方」

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山辺健史 著/岩波書店 刊(岩波ジュニア新書)

10代向けレーベルとして発行されているけれども、巻末章では挫折のトキワ荘メンバー・森安なおや氏にまつわるルポが収録されていたり、コミケに一般参加してプリキュア18禁本を買ってみたりなど清廉潔白で無味乾燥な姿勢ではないあたりがやや枠を外れており、一言でいえば等身大な取材姿勢に好感が持てる。しかしどのあたりがジュニア向けかといえば、その取材姿勢そのものが教育的なのだろう。いわゆる総合学習科目の手引書としても使えそうな適度な深浅を持った一冊。
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2004年10月08日

今期の読了本その35(小説:14)「夏の炎の竜(下)」

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M・ワイス&T・ヒックマン 著/安田 均 訳/エンターブレイン 刊

シリーズ第一作の瑞々しさと緊張感には及ばないまでも、キャラクターが神意(=真意。神の発見は自らの良心の発見であるのだと思う)にうたれる瞬間の美しさはやはり印象的。惜しむらくは、ヒロインが最後まで能動的とはあまり言えず魅力に乏しかったことか。迫りくる世界の終末を尋常ならぬ猛暑とした描写まわりは圧巻。

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2004年10月01日

今期の読了本その34(小説:13)「まひるの月を追いかけて」

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恩田 陸 著/文藝春秋 刊

少女趣味がいまだ覗く文体と、それを客観視する事で生まれているであろう硬質で正当派なジャンル構成(本著の場合は文芸ミステリー)とのバランスが恩田作品の魅力だと私見しているけど、今回はそれが特に成功していると感じた。オチもしっかりと付いていてなおかつ余韻嫋々。万葉集をモチーフとしてさりげなく用いている仕掛けが、謎解きの回答にちゃんと活かされているのも好ましい。奈良県下の複数の観光ルートを巡る趣向も旅情をこれでもかと誘ってくれるガイドブック的な楽しみも。しかし、一昨年私も出会った新薬師寺の門のあたりで昼寝している黒猫が本当に登場したのには思わずうれしくなった。いつもいるのだなあ。
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2004年09月30日

今期の読了本その33(エッセイ:13)「アメリカン・ディストピア」

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宮台真司、神保哲生 著/春秋社 刊

資本の影響を受けないインターネット配信ならではの環境で、日本の現状認識と今後の展開への見通しが斟酌なく語られた内容を書籍としてまとめたもの。非常に濃い。この上なく鋭く淡々とした政治分析には衝撃を受けるほどに気が滅入るが、苦いながらも咀嚼を試みなければと思わせられる滋養がこの本には感じられる。また、控えめながらもベターな選択肢の掲示も要所要所で為されているあたりも書籍商品としては親切。アメリカイズムを考えることは、つきつめれば日本自体を知ることになるということで書題の示すテーマからのブレは非常に少ない。抽象論や一般論に逃げずに、基本的に具体的な状況を語っている点も類書と比べてフェアな姿勢。一年前の発行だけれど、まだまだ読まれるべき本だと思う。

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2004年09月23日

今期の読了本その32(小説:12)「紙葉の家」

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マーク・Z・ダニエレブスキー 著/嶋田洋一 訳/ソニーマガジンズ 刊

あー思い出した。「果てしない物語」の装丁に似てるんだ。あれよりもっともっと凝って錯綜した作りになってるけど。

とある家族が購入した中古の屋敷の内部に、伸び縮みする廊下があった…というミステリー仕立ての本筋もやたらボリュームがある脚注も、どちらも冗漫で正直いって楽しめない。偏執的スタイル(作者の正体がほとんどまったく説明されてない事が読み手の困惑に拍車をかける)にきっちり付き合った訳者や出版社の酔狂に賛意の混じったため息をつくしかない。まあなんていうか、こちらの負けですわ。最終ページまで到達したとはいえ、半分も精読してないし。
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2004年09月21日

今期の読了本その31(エッセイ:12)「トゥルー・ストーリーズ」

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ポール・オースター 著/柴田元幸 訳/新潮社 刊

ゆったりした語り口で明かされる、オースター小説のネタ元メモ帳、といった趣き。定評のある柴田氏の訳文の力もあり、エッセイというのは内容そのものよりもやはり文体やテンポといったスタイル自体の方が重要なのだなあと知らされる珠玉の一冊。中でも、オースターの若い頃の精神面・経済上・社会性すべてが右往左往状態だった日々の思い出を綴った自伝的エッセイ中編『その日暮らし』が鮮烈な印象。世界の現実は、虹色の油で汚された海面に浮かぶ無数の魚。あらゆる成功の源は、そうした醜い事実を直視してなおかつ受け入れなければ手に入らない。オースターは洗練された臭みのないテキストを通じて、いつもそうした苦い真実をおだやかに教えてくれている気がする。
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2004年09月16日

今期の読了本その30(エッセイ:11)「晴れた日は巨大仏を見に」

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宮田珠己 著/白水社 刊

北は芦別から南は長崎まで日本各地に全高40m以上のキッチュな巨大仏がある事を知った作者が、現地を取材して記した連作紀行エッセイ。適度に脱線する文体(やはりというかやむをえずというか路上観察系の常として赤瀬川文体の影響が抜けきれていないが、それも後の頁にいくほど薄れている)は、巨大仏のある風景の虚脱感をなぞっているようで雰囲気が出ている。主要な巨大仏16体をすべて紹介しているガイドブックともなっているので、かなり丁寧な仕事の単行本といっていいと思う。なお初出はネット上のサイト内企画とのこと。しかし北海道大観音とその周辺施設が、きちんと北海道民の一般特色としてあっけらかんとした佇まいであるらしきことが分かるくだりには、なんとも微笑ましく思った。表情もまことに軽やかだし。それと豊富に挿し込まれている著者自らが撮影した写真図版も、それぞれが非常にレイアウトが決まっていて見応えがあるのだけどなかでも表紙にも使用されている仙台大観音は鮮烈。(たとえが古いが)金妻のロケにも使えそうな瀟酒なニュータウンを前景に、どうみても家々と質感が違いすぎて写真合成にしか見えない純白の巨大観音像がそびえたつ。これは一つの、なんというか事件というか過失というか、うーん… 地価とかに影響は出ないものなんだろうか。
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2004年09月13日

今期の読了本その29(エッセイ:10)「日本美術の二〇世紀」

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山下裕二 著/晶文社 刊

発行部数の少なめな企業PR誌に連載されたものを書籍としてまとめたもので、肩の力が抜かれている分作者のスノッブ臭が少々鼻についた。とはいえ内容自体は興味深いものが多く、特に印象に残るのは近年定説疑問説が提出された「伝 源頼朝像」をまつわる学会やマスコミ周辺の話題と、数年前にNYで開催された日本現代美術展での率直な見学客観察。
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2004年09月05日

今期の読了本その28(小説:11)「ケルベロス第五の首」

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ジーン・ウルフ 著/柳下毅一郎 訳/国書刊行会 刊

恐らく“古くて新しい”SF作家を紹介していく目論みのシリーズ『未来の文学』レーベルの第一弾。
諸媒体での紹介文を読むといかにも難物そうに思われたが、実際に頁を繰りはじめるとかなりスラスラと行間を進められたのは、構成や設定の凝り様は置いておいてもテーマ性のブレの無さに導かれていくため。SFとしての仕掛けを十全に利用しつつも、SFである事に耽溺していない種類の作家なのだと思う。共同体の歴史の語りの不確かさを主旋律に、個人の自我の不定形ぶりを副旋律として忍ばせる。これってつまり、SFである前に小説そのものであり、まさしく文学であるよね。あるいは文章のすべてを理解できたとは言えないかもしれないけど、それでも面白い読書体験となりました。
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今期の読了本その27(エッセイ:9)「日本美術応援団」

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赤瀬川原平、山下裕二 著/日経BP社 刊

シリーズ本家本元第一弾の単行本ということで、やや対談内容に説明臭さが感じられたが、それは刊行順を遡る形で読んだ私が悪い。江戸から明治の名品絵画を中心に、スタンダード中のスタンダードがセレクトされているが、赤瀬川氏の個性的な鑑賞眼とアカデミズムから半歩踏み出した山下氏の解説文とが同時に楽しめるとは、やはり名企画なんだなとの認識をあらためて。
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2004年08月13日

今期の読了本その26(小説:10)「シャッター・アイランド」

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デニス・ルヘイン 著/加賀山卓郎 訳/早川書房 刊

アカデミー賞受賞作「ミスティック・リバー」の原作者による孤島ミステリー。舞台は精神医療刑務所で、ジャンルとしてはサイコサスペンス。伏線構築的にはおそらくは古典の部類になるのだろうけど、あまり謎解きをする癖のない私には十分面白かった。心に傷を負った人間への視線があくまでも繊細かつ濃やかな点に強く好感を持つ。「ミスティック・リバー」も、まずは原作から読んでみようかな。なお、本作もウォルフガング・ペーターゼン監督により映画化が決定しているとのこと。どう料理するのか、見てみたいかも。
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2004年08月11日

今期の読了本その25(エッセイ:8)「すべての映画はアニメになる」

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副題:『押井守発言集』/徳間書店 刊

「月刊アニメージュ」で発表された対談やインタビューを中心として、押井守自身が選んだ『現在でも読む価値があるもの』を一冊にまとめた本。とにかく色んな著名人と対談している。時代の幅も80年代から今年までと広い。それにしても、相手が誰であろうと(唯一、文芸評論家の長部日出雄氏との対談は戸惑いがあったのかやや腰が引けていたようだが)言葉を尽くす精力には圧倒される。内容中でも本人自身が述べているけど、ビジュアルの人であると同時に言葉の力を信じ切っている人なのだと実感。信じているといえば、アニメという表現形式への信頼が何十年もここまで揺るぎなく継続しているクリエイターというのも、なんだか珍しいのではないだろうか。序々に盛り上がりを感じる静かにエキサイティングな発言集でした。
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2004年08月02日

今期の読了本その24(ノンフィクション:3)「こんな夜更けにバナナかよ」

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渡辺一史 著/北海道新聞社 刊

筋ジストロフィー患者として24時間介護を受け続けて2002年8月に死去した鹿野靖明氏を中心人物として、彼とボランティアたちの交流の様子をそれぞれの個別インタビューを挿入してまとめたもの。決して薄くない本なのに口語体で肩の力を抜いて綴られているためか本当にサクサク読めた。鹿野氏のどこまで自覚的かつかみにくいエゴの直裁なぶつけ方を扮飾を最小限に抑えてあぶりだす渡辺氏の方法論は、ボランティアもまた一つのコミュニケーションの形として在り、そしてそれは社会を形成する中で欠けることがありえない事柄なのだと自然に導いてくれる。ここまでボランティアの実情を平易に理解できる本には初めて出会ったと思う。複数のノンフィクション賞を受けているのも納得。
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2004年07月29日

今期の読了本その23(小説:9)「片付けない作家と西の天狗」

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笙野頼子 著/河出書房新社 刊

土着神たちとの心的交流をメルヘン設定的に描いた短編が多く収録されている。内面からうねうねと行進が螺旋で湧き上がってくるような、さりとてけして暗くはない猥雑な賑やかさ。ベストを選ぶとすれば地下の人外図書館を舞台にした『S倉極楽図書館』かな。あと全体印象としては、オチがそれなりに付いているのがいくつかあったのが(笙野作品の中では)意外な気がする。しかし氏の描写するS倉の町並みは、なかなか詳細にイメージを喚起される。まるで自分が住んでるみたいな追体験感。
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今期の読了本その22(小説:8)「S倉迷妄通信」

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笙野頼子 著/集英社 刊

捨て猫たちを救出するために雑司が谷のマンションから千葉・佐倉の一軒家へと移った実体験を元にした小説シリーズの第二弾。猫たちや住民たちへの呪詛と祝詞の入り交じった日々は続き、それらはいつしか混ざり合って昇華されていく。部分的には「ついにかってちまった」という近所の子供の口調を描写した台詞まわしの前後文に爆笑。笙野氏の憤りは根深く生々しいのに、同時に存分に客体視されているので読後感が悪くないのがありがたい。
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2004年07月20日

今期の読了本その21(エッセイ:7)「日本美術観光団」

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赤瀬川原平、山下裕二 著/朝日新聞社 刊

編集やレイアウト全般が見事な仕上がりで、ぱらぱらとめくるだけで観光スポットめぐりの楽しさがこちらに伝染してくるよう。ピンとこなかった場所と意外に新鮮な感触を得た場所とのコントラストが率直に対談されているのが(『日本美術応援団』シリーズ全体の特徴でもあるけど)素人目に合っていて読みやすい。出雲大社や日光といったよく知られてはいるけど、団体旅行客がたむろする微妙に俗化された印象の強い場所を多く巡っているので、有名スポット再発見的な意味合いが強い。かも。
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2004年07月16日

今期の読了本その20(グラフィック:3)「PERSONA」

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鬼海弘雄 撮/草思社 刊

ペルソナとは、たしか意識的に本人が身に付ける「仮面」、社会的パーソナリティを意味する言葉だったと思う。しかしこの写真集の中で、浅草寺境内を撮影場所としてフィルムに定着されている一見してアクの強い市井の人々の肖像は「仮面」を付けることで返ってあぶりだされてしまっている。言うなれば生煮えで剥き出しの内面の群像集。版型の大きさも相まって、ある意味では非常におそろしい本。ページを繰る中でとつぜん自分の無防備に撮られたポートレイトを発見してしまいそうないたたまれなさというか…

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