ジェフリー・フォード 著/山尾悠子、谷垣暁美、金原瑞人 訳/国書刊行会 刊
世界幻想文学大賞を受賞している1997年の作品。三部作の内の第一作とのこと。
観相学(大衆の人相を体系化して性質解析に用いたもの。はげしく恣意的で独裁体制の道具となっているという設定)の専門家としていけすかなく登場した主人公が不老不死の効用を持つ“白い果実”を求める支配者の指令を果たすべく片田舎の属領で捜査をすすめる間に、唐突に失墜してしまう第一章はゴシックミステリー調。
流刑先の硫黄掘削所で孤独な激務に耐えつつ風変わりな島の使用人たちと交流を深め、属領で知り合った娘が残した手記によって“白い果実”の成り立ちに思いを馳せる日々を描いた第二章は監獄小説仕立て。作業場の不快さと硫黄の質感や悪臭、対照的な夜の宿泊所のいこいを描き出す筆致はフェティッシュで、翻訳のリライトを担当した山尾氏の持ち味を最も楽しめる箇所かもしれない。またこの章においても、登場人物プロフィールのミステリーが牽引役となり、リーダビリティを補強している。装丁の第一印象ほどには堅い小説ではないのである。むしろ十分にエンターテインメントな仕上がりとすらいえる。
第三章においては主人公は独裁者の待つ首都へと帰還することになる。そして民衆の間にひそかに反乱のきざしが根強く芽吹いている事を知り、以後はテンポよく内部崩壊のスペクタクル劇が綴られる。キーワードとなるのは“楽園”。主人公、独裁国家の住民、滅ぼされた属領の生き残りの人々、それぞれの行動が目指す“楽園”とはいかなるものなのか。最終章としてふさわしく見事な手際で描き出される一つの思索ルート、そしてラストの文節の余韻が、いつまでも胸中に響き渡る極上の読後感。
あー山尾訳、最高です。そしてジェフリー・フォードの他の作品も早く読みたい!